入試説明会でよくある質問
入試説明会で、化学・物質工学コースの説明担当教員が、高校生や保護者から頻繁に受ける質問と回答を会話形式で書いています。
質問者は高校3年生のAさん。10月の入試説明ブースでの相談です。
長崎大学工学部志望のAさんは、化学の勉強は共通テストレベルまでですが、出願時期が迫る中、化学・物質工学コースへの興味が増したようです。
B先生(合成化学が専門)
C先生(金属材料物性が専門)
今日はよろしくお願いします。
こちらこそよろしく!
何でも聞いて下さい。
私は、これまで物理を中心に勉強してきたのですが、出願前になって、化学や材料に興味がシフトしてきました。
前期日程の個別学力検査では、物理を選択しても、化学・物質工学コースを第一志望に書けるのですね?
本学工学部の前期日程入試での理科は、全コースとも、2科目(物理 or 化学)から1科目を選択できます。
物理が得意だそうですね。物理で受けて化学・物質工学コースへ入学してきた学生も多いですよ。
はい、物理は自信があります。化学は共通テスト対策の勉強だけなので、それは少し安心しました。
ところで、化学・物質工学コースで学ぶ化学や材料の分野は、これからの社会にどのように役立つのですか?
自動車を例にしてみましょう。自動車は、燃料、塗装、フロントガラスなど、化学の先端技術のかたまりです。そして、自動車は100年に一度の大変革を迎えていて、電気自動車が普及するかどうかは電池次第。
電池の開発には化学の知識と実験技術が不可欠です。化学や材料工学が世界を変えていきます。
私は高校1年生のころ、機械や構造物にも興味があり、鉄筋コンクリートについて調べたことがあります。
今、劣化対策が課題になっていて、腐食の基本的な理解に化学の知識が必要だとわかり、びっくりしました
そうですね、よく調べていますね。あらゆる工学が、実は化学や材料に支えられている、とわかりますよね
電子デバイスの作製、エネルギー問題の解決、磁石の開発、環境対策も基礎は化学・材料です。
環境といえば、マイクロプラスチックが世界中の海で大問題になっていますね。本コースの化学者も取り組んでおり、テレビ番組で紹介されました。
あと、材料の分野って、どういう内容なのかよくわかりません。
私は固体材料が専門ですが、マイクロマシンから、巨大な建造物まで、あらゆる材料の性質は、その中の原子の配列や微細構造で決まるんです。
材料工学は、ナノから巨大なものを作っていく、壮大なスケールの工学分野です。
Zn4Sb3系熱電変換材料の高分解能電子顕微鏡像
HApナノ粒子の電子顕微鏡像と水分散液の蛍光
ハイドロキシアパタイト(HAp)は人間の骨や歯の無機成分で、人体との融合生が非常に良い材料です。蛍光性を持つHApナノ材料は薬物送達システム(DDS)やバイオイメージングなど医療分野に大きな応用が期待されています。
そうすると、大学ではどんな材料を学ぶのですか?
セラミック、高分子、金属やこれらを複合化した材料をまず勉強します。
それから微細な組織や組成の制御でより望ましい性質の材料を設計する方法を学びます。
広い分野なんですね。
化学の授業では、合成反応とか、物質の変化とか、すでにわかっている知識を学んで、それを応用するんですよね。
はい、既存の知識と化学実験のテクニック、また材料の設計や理解力の習得は、社会に出て活躍する底力になります。
化学にはまだまだ広大な未踏分野があります。習得したことを応用して新しいことに挑戦していける実力が得られるよう、カリキュラムを組んでいます。
え、そうなんですか?
どんなことが、まだできていないのですか?
例えば、そこの後ろにある水槽に、小さな魚が泳いでいるよね。
どうやって動いているのかっていえば、実際、高精度に制御された多彩な化学反応の連動なんです。そのような過程の一部分も、実はまだ完全には人工的に再現できていない。
これからの化学では、小魚の動きを再現できるソフトロボットを、生物に倣って作るといったことへの挑戦も最大のテーマの一つなんですよ。
リチウム二次電池の高性能化!
原理の解明から電極設計へ
スマートフォンやノートパソコンをもっと長く使いたいと思いませんか?これらの電源にはリチウムイオン二次電池が使われていますが、その能力を100%発揮できていません。電子顕微鏡を用いて充放電過程の謎をナノオーダーで紐解きながら、電池材料の特性を大幅に高性能化しています。
挑戦:分子ロボットを作る!
水槽で藻をぬって小魚が泳ぐ動きを人工の分子組織体で再現したい
「センサで見て、知性で判断して、自ら動く」この3機能を持つ未来の分子ロボットを実現させるための基礎を研究します。「還元」の指令で急速に縮むゲルができました。アメーバの動きの実現に挑戦中です。
すごいですね。機械仕掛けのロボットだけでなく、化学反応で動かすロボットも面白そうですね。
このコースならでは、というような開発中の材料って何がありますか?
例えば、水素ステーションから漏れたごくわずかな水素を検出したり、人が呼吸ではいた息から病気を発見したりできるセンサ材料の半導体とか、生物に接しても害がないセラミックスつまり有田焼のような材料が作られています。
それから、電池を、効率を落とさずに全固体化する研究も進んでいるんだよ。
全固体電池の断面像
これまで物理を中心に勉強してきましたが、化学や材料への興味が強まってきました。
実は、化学はそんなに勉強していないんですが、入学してから化学を身に着けられますか。
材料を学べますか?やっぱりそれが不安なんですが。ついていけるかな?
大丈夫。実際、同じように入学してきて、化学が得意になって卒業し、企業の研究・開発職で活躍中の修了生も大勢います。
授業の内容も考慮されています。1年生の最初に習う基礎化学の教科書は、高校で数学と少しの物理さえ習っていれば、高校化学の復習をしなくても、大学レベルの学びに入れるようにと、このコースの先生が自分で書いた本です。
生物を習っていない学生のために、生命科学の教科書も、コースの先生方が自ら執筆しました。
実は、数学・物理を基礎に大学化学の勉強へは入りやすいんです。原理を理解しながら化学がわかるルートを通れますから、実力が着きます。
材料の基礎になる固体の構造や性質の勉強も1年生から始まります。三次元的な原子の並びを頭の中に描いて、そうジャングルジムとかのように、そうやって材料の学びがスタートします。
三次元物体の形が頭の中で浮かべられるようになると、有機分子の構造や、金属錯体の形の理解も無敵です。
固体電解質の結晶構造とイオン伝導経路
自己集合により金属錯体を内包した発光性有機–無機超分子複合体
Aさん、分子の形ってイメージできる?
それは私、得意です。立体の展開図を描くとか、折り紙も得意ですから!
最近では、DNAでオリガミの立体を作る化学の手法もあります。タンパク質や錯体の美しい構造も授業で次々と習いますよ。ここにいくつか、図があります。
赤血球の中で酸素を運搬するタンパク質であるヘモグロビン
抗がん剤候補化合物(LamN)がタンパク質に結合する様子
まるでアートですね。建築設計だけでなく、化学や材料もデザインの世界なんですね!
あと、親からは、物理系か化学系か早く決めて、受験も大学での勉強も、専門を極めるようにって、そう言われます。ふらふらするなと。
化学なら医薬品開発、物理なら電気回路か建設技術って、決めたらって。そうやって絞った方がいいんでしょうか?
もっともな質問です。答は『はい』でもあり『いいえ』とも言えます。
例えば、このコースで卒業研究が始まると、世界で誰もしたことがないテーマに集中していき、学生たちは皆、のめり込んでいきます。そうした一点集中型の研究で、突き抜けられる力をつけて大学院に進んでほしいと思っています。
一方、物理~化学の全工学分野へのあなたの興味も、これからの社会では大事な武器です。
物理と化学は切り離すことはできません。例えば、コースに来る一流企業からの就職求人では、造船の企業が、化学ができる人を求めて来る、これは塗装や腐食防止技術など。
それに電機やエネルギー、建材などの多くの大手メーカーも、化学の基礎ができていて、材料分析もできる学生を求めてきます。
大学に入って、様々な人と接し、じっくりと学問に取り組むことで、興味の対象は変わることも多々あります。
このコースは、化学から材料まで、幅広い分野の研究室でそれぞれ特徴的な研究が行われています。
2年生くらいまでは教養教育科目を含め、いろいろな知識を吸収し、卒業研究が始まるまでに、自分の興味や進路を絞り込めればいいのではないでしょうか。
なるほど!
あと最後に、化学・物質工学コースで学ぶことは、化学工学とはどう違うか教えて下さい。
化学工学は、化学工場を作る、あるいは、化成品などの製造プロセスに関する分野です。化学・物質工学コースでも「化学工学」の講義があります。全部を網羅することはしませんが、テーマを絞って、深く学ぶこともできます。
このコースの内容には、理学部の化学の色彩もあります。実際に、毎年、高校の化学や物理の教員免許を取得する卒業生がいます。
それも含め、従来の分野名でいうと、このコースは応用化学と材料工学に一番近いかと思います。今日はありがとうございました。